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武士は喰わねど高楊枝。でも、それはしたくてしてるわけじゃないんだ!
『武士の家計簿 加賀藩御算用者の幕末維新』 (磯田道史。新潮社。新潮新書。2003年。680円) 「最近発見された金沢藩士猪山家の文書には、金沢藩の御算用者として働いていた猪山家の三代に渡る精細な家計簿が含まれていた。この家計簿からこれまでほとんど知られていなかった武士の経済状況を調べ、さらに幕末から明治を生きた猪山家の立身出世の物語を生き生きと読み解いていく。」 江戸時代の武士の生活について、金沢藩士猪山家を中心に調べていく良作。 この本が出たのは2003年ですが、2006年の夏ごろにこれの内容を追ったテレビ番組「拝見・武士の家計簿」がNHK教育で4回シリーズでやってました。それを見た時非常に面白かったので、いつか読もうと思ってました。 1842年(天保13年)から1879年(明治12年)までの猪山家の家計簿や書簡といったものをもとにして、当時の武士の生活・思想や慣習・支配システム・階級制度・経済的構造などについて掘り下げていっています。 テレビ見てた時にも思いましたが、作者の茨城大学助教授・磯田道史氏の軽妙な語り口がとても楽しくわかりやすいです。三章の冒頭、「ありのままにいう」のくだりはマジで笑いました。 加賀藩(金沢藩。大政奉還以後はそうとも呼ばれるとか。この前間違ったこと書きました。)は、戦国時代、織田信長の武将だった前田利家が開いた藩で、加賀・能登・越中、つまり現在の石川県と富山県を統治していました。「加賀百万石」と言われるように、当時の諸藩の中で、唯一100万石を越す領地を持っていた大大名でした。猪山家文書がはじまる時の藩主は13代目の斉泰。 猪山家は当初、前田家の直参ではなく、菊地右衛門という1000石程度の前田家の家臣につかえる「陪臣」でした。しかし、5代目・市進の時(1731年)に、前田家の「御算用者」つまり経理係のひとりとして仕えはじめています。もらってた給料は「切米40俵」。お米の単位「合升斗石」は「1石=10斗=100升=1000合」となり、一升はだいたい1.5キログラムです。現在、「1俵=4斗(60キログラム)」ですが、当時は「1俵=3.5斗」が基本、ただし、加賀藩は「1俵=5斗」だったので、「切米40俵」は200斗、つまり20石程度の収入となります。 猪山家はその後の働きによって、知行地を与えられることになります。これは七代目の信之によります。それには東大の赤門が関わっていました。東大の敷地は加賀藩の上屋敷跡なのですが、あの赤門はその時に建てられたものです。前田家当主・斉泰が、将軍・家斉の子・溶姫と結婚する時に、婚礼のお祝いで建てられたから、赤く塗ってあるわけです。この時、逼迫する藩の財政の中(赤門の内側が朱色に塗られていないのは、塗るお金を節約したからだとか)、門の建設に活躍したのが猪山信之で、その功績から知行地が与えられることになります。 非常に出来の良かった信之は、さらに「御次執筆役」という藩主の書記官のような役職についたりもしますが、重要な役職であるにもかかわらず俸給は少なく、借金が嵩みます。しかし、「少ない」といってもそれは他の代々の家臣にくらべれば、ということで、当時の猪山家の年収は現代の感覚で約1200万円くらいはありました。こんなに収入があるのになんで借金があるのかというと、これは当時の制度が、武士が武士らしくあるためにどうしても必要なお金が、収入を上回るようになっていたためでもありました。あまりにも借金が増えたため、家財を整理し、本気で借金返済に乗り出します。 こうして付けられはじめたのが、「金沢藩士猪山家文書」と呼ばれるものに含まれる細かい家計簿だったわけです。しかも、この家計簿を付けていたのが、加賀百万石の財政を担う「御算用者」だったため、非常に正確で細かいものとなりました。 何にいくら使ったのかなどがみんな分かるため、当時の生活の様子がまさにそのまま分かってしまうわけです。 この本が楽しいのは、猪山家の歴史そのものを体験できるとともに、当時の政治状況やさまざまな制度が、どうして猪山家をこのような状況に追い込み、そしてどうして猪山家が出世することが出来たのか? ということを読み解くことができるからかと。なんだか読んでてわくわくしてきます。一級の物語にも引けを取らないドラマ性というか、状況を解明していく面白さというか。 ともかく、歴史にそれほど詳しくない人でも読める手軽感もあり、非常にオススメの一冊です。 参照サイト 加賀百万石 美と歴史 http://shofu.pref.ishikawa.jp/shofu/kagaDVD/ おコメの単位 http://www.naozane.co.jp/okome/tani.htm お米の単位 http://gantara.com/okome/mame/mame1.htm 磯田道史個人データ http://www.hum.ibaraki.ac.jp/renkei/intro/h-isoda.htm 関連記事 時代劇や漫画小説がどれだけ実像と違うか解ると吃驚します。東郷隆&上田信『絵解き 戦国武士の合戦心得』 http://xwablog.exblog.jp/10516201/ なんで江戸に幕府が出来たのかに答える。岡野友彦『家康はなぜ江戸を選んだか』(江戸東京ライブラリー9) http://xwablog.exblog.jp/8401258 この記事へのコメント 「絵鯛」のエピソードが大好きです。泣ける。NHK教育の番組も観てましたが、役者も悪くなかったですね。 Posted by 速水螺旋人 at 2006年12月24日 21:03 NHK教育、たまたまだったんですが、私も見ました。 あれは面白かったですね。 この本が繋がっているのは知りませんでした。 面白そうですね。 買ってみようかな・・・って未読山が大きいなあ(^^; Posted by 武藤 臼 at 2006年12月24日 23:33 >絵鯛 当時の猪山家の人たちがどんな態度や気持ちであの鯛の絵を見たのかとか想像してみるとなんとも。まさに「武士は喰わねど高楊枝」。自分が雇ってる人間よりお金に窮するというのも泣けますね。 >NHK教育 NHKはあの手の番組でああいった再現をやろうとすると失敗することが多いのですが、あれは成功でしたね。お父さんのつらそうな様子がよかった。 >味読山 これはページもそんな無いしかなり読みやすいですから、簡単に読み終わりますよ。是非是非。 Posted by 管理人・馬頭 at 2006年12月25日 02:30
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