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これは古いblogのときの記事です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 失われたものと再び巡り会った時、少女の恋の行方は? 高丘しずる『エパタイ・ユカラ 愚か者の恋』 昔からお酒を飲むと体が痛んだりすることはありましたが、最近は歳のせいか前よりも痛みが強くなったような気が・・・。そういうこともあって、今日は一日だるだるのゆるゆるでしたよ。 それはともかく。 ちょっと前にこの記事を読んでからずっと気になっていた作品なんですが、読んでみて大正解。 『エパタイ・ユカラ 愚者(おろかもの)の恋』 (高丘しずる。イラスト/輝竜司。エンターブレイン。B's-LOG文庫。2006年。460円。印刷/凸版印刷。デザイン/虹川貴子 POLISH) 「温暖化による海水面上昇などの混乱によって社会が崩壊し、国が東西に分断された23世紀半ばの日本。大陸の支配下にある西倭国(せいわこく)の総督府の町にかつて四国と呼ばれた島からやってきた少女・古閑黎良(こがれら)は、上流階級の娘たちが通う女学院へと入り、医師となるために勉強に励むのだった。しかし、総督府には東倭国からやってきたレジスタンスたちが潜伏し、不安な情勢となる。そんな中、黎良はテロに巻き込まれ、そしてかつて誘拐された弟と再会するのだが・・・」 混乱の中で秩序が崩壊し、中国が主体らしいアジア大陸国家共同体によって支配された西日本と統一アメリカによって支配された東日本。その後、東日本は革命によって独立したのですが、今度はその東日本からやってきた革命グループが西日本をも独立させようと画策。そのテロリズムに巻き込まれることになるのが、主人公の古閑黎良(こがれら)です。大陸からの支配によって中華系支配者層が浸透している社会。その支配者層の末席にいる黎良ですが、実は彼女は革命家・千歩光寿(せんぽこうじゅ)の娘でした。彼女は幼い時に千歩光寿の友人の古閑夫妻に預けられることになったのです。 そんな彼女が医者になろうと、しっかりした教育のため、10歳の時に全寮制の女学院へと入ります。寄宿舎では良家のお淑やかな同年代の女子たちと生活するものの、両親の診療所がある四州(四国)の山々の中で育った彼女はお淑やかになりきれず、学友からは「孫悟空」呼ばわりされる存在に。 本物のお嬢様である阪慧蘭(はんけいらん)や、クールな莫花霞(ばくかか)といった良い友人たちに恵まれながら女学生としての楽しい日々を過ごす黎良ですが、七月末の卒業式に九年生を追い出すためにやる演劇の脚本を書くことになります。彼女が選んだのは古典の『とりかえばや』。日本の古典なので彼女の通う女学院には本が無く、図書館に借りに行くことになるのですが、その帰り途中で雨宿りすることにあったのが桜桃茶房(おうとうさぼう)という喫茶店。そこで働く少年に傘を借りた時、彼女は恋に落ちてしまうのです。 しかし、話は瞬く間にきな臭くなってきます。西倭銀行本店ビルで起きた爆弾テロに巻き込まれた彼女は、ある人物によって命を救われます。それはイメルと名乗る人物で、当局からテロ組織として警戒されている『カムイセタ』のメンバーでした。その彼こそが桜桃茶房で恋したあの少年であり、さらには、彼こそが10年前に誘拐された黎良の弟で、千歩光寿の養子となった明(あきら)だと知ります。 千々に乱れる彼女の想いを置き去りにして、事態はさらなる急展開を見せることになるのですが・・・。 めちゃくちゃ乙女チックな部分と血なまぐさい革命運動が渾然一体となった素敵な一作。乙女と革命闘争が見事な融合を見せています。(ところで、この小説、2255年が話の中での年代のようです。23世紀だけどそれほど近未来モノという感じをさせず、普通に話の中に入れます) 本気で医師を目指す黎良は、そういった勉強によって身を立てるという指向の無い少女たちが集まる女学院(そういや女学院の名前はずっと出て来なかった)の中では少し違和感を覚えていますが、その時出会った働く同年代の男の子・明にぐぐっと惹かれることになります。傘を返しに行くまでの過程とか、喫茶店内での会話とか、会えない時の心の動きとか、黎良の恋する姿の初々しさというか素直さが、非常に可愛らしく良いのですが、そこから状況が凄い勢いで変わっていくことで、彼女の心が揺さぶられていきます。そしてその恋心がどうなっていくのか・・・・これは今後の楽しみになってきましたよ。 追い出しパーティーで演じられる『とりかえばや』の男女入れ替わりの物語という内容が、黎良と明の現実の話とオーバーラップして上手く語られたりするのですが、実は『とりかえばや』という話、今まで全然知りませんでした。平安末期の古典文学だそうです(1180年以前に成立)。wikiによるとタイトルの意味は「「とりかへばや」とは「取り替えたいなあ」と言う意の古語。」だそうです。内容は、貴族の家に男女の子供がいて、男女を逆にして育てられたのですが、その後出世したものの自分の本性に悩み、最後はまた密かに入れ替わることになる、という話。あらすじだけでも感じますが、「近代的小説に近い重要な要素を持つ」作品です。で、これを少女小説にアレンジしたのが氷室冴子氏の『ざ・ちぇんじ!』だそうです(そうだったのか・・・)。山内直美氏によって漫画化もされてますね。 ところで、登場するテロ組織の名前が『カムイセタ(神の犬)』でそのメンバーもアイヌ語名を名乗っています。日本の独立運動の組織なのにアイヌ名ってのはどうだろう、とか少し思いましたが、アイヌの話自体はこの巻では何も出てきませんでしたが、『とりかえばや』のように物語が何かからんで来るのでしょうかね。ちょっと期待。 ちなみに、タイトルからしてアイヌ語ですが、「ユカラ」はアイヌの叙事詩のこと。「ユーカラ」ともラを拗音にした「ユーカラ」とも書きますね(「yukar」みたいにアイヌ語は子音で終わるのがあるので、「小さいラ」とかになってしまいます)。「エパタイ」は愚か者とかバカの意。「エバタイ」ともいいます。アイヌ語は清音と濁音の違いが無いそうなので、たぶんパでもバでもいいのでしょう。 そうなると副題の「愚か者の恋」は基本的なタイトルの一部ということでいいのかな? 巻数が書いて無いので、この巻のタイトルとして「愚か者の恋」となってるのかと思ったのですが、続刊が出た時はどうなるんでしょ? この『エパタイ・ユカラ』を出してるB's-LOG文庫は、エンターブレインが去年からはじめたレーベルで、『B's-LOG』『comic B's-LOG』に連なる乙女系の作品を扱うようです。「乙女のための最強文庫」を名乗っています。B's-LOG文庫は今回初めて手を出しましたが、これはかなり侮れないようですよ。今後もチェックが必要なようです。 この『エパタイ・ユカラ』にイラストを描いている輝竜司(きりゅうつかさ)氏は、小説の挿絵は初らしいです。今まではゲーム系のイラストとか。サイト有り。同人活動もしてる? 参照サイト [高丘しずる] エパタイ・ユカラ 愚者の恋(booklines.net) http://www.booklines.net/archives/4757730667.php B's-LOG文庫 http://www.enterbrain.co.jp/bslog/bslog_bunko/ アイヌ民族博物館 http://www.ainu-museum.or.jp/ ainu.info http://www.ainu.info/ ユカラネット http://www.yukar.net/ MercuriusLAB(輝竜司) http://www.mercuriuslab.com/ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 関連記事 古代におけるエミシという呼称の使われ方の解説とそれがどういった人々かを検証。工藤雅樹『蝦夷の古代史』 http://xwablog.exblog.jp/7921152 いままで抱いていたアイヌ観を変える様な一冊。瀬川拓郎『アイヌの歴史 海と宝のノマド』講談社選書メチエ http://xwablog.exblog.jp/7924147
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| 2007-04-03 19:35
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