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テルモピュライの戦いは100万対300人のガチンコバトル。F・ミラー『300(スリーハンドレッド)』その1
これは映画観た時に書いた古い記事です。
DVD出るので、こっちのブログへ移動してみました。長い記事だったので分割してます。これはその1。(その2はこちらへ。)

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2007年06月11日
テルモピュライの戦いを映画化! 100万対300人の絶対的な数量差をものともしないガチンコバトル。フランク・ミラー『300(スリーハンドレッド)』

「国ひろきスパルタに住もう民どちよ、汝らの誉れ高き大いなる町は、ペルセウスの裔なる子らに亡ぼさるるか、さもなくばヘラクレスの血統に連なる王の死をば、ラケダイモンの国土は悼むこととなろうぞ。攻め来る者はゼウスの力を持つ故に、牡牛の力、獅子の力をもってするも、これに刃向いて制する能わず。敵がかの二者のいずれかを喰らい尽すまでその勢いを止める術はなきものぞ。」
(デルポイの巫女が下したという託宣。ヘロドトス『歴史』下巻P140より抜粋。)

映画『300』を観てまいりましたよ。これは凄い。

300フランクミラー


『300(スリーハンドレッド)』

(監督・製作総指揮/ザック・スナイダー。原作/フランク・ミラー。配給/ワーナーブラザーズ。出演/ジェラルド・バトラー。レナ・ヘディ、ロドリゴ・サントロ、デビッド・ウェナム、ヴィンセント・リーガン)
「南部ギリシアの強国スパルタは、全市民が戦士という軍事国家。そこにギリシアを侵略し、服従を迫ってくるペルシア帝国からの使者がやってくる。スパルタ王レオニダスは、その使者を殺し、奴隷になるよりも戦うことを選んだのだったが、国政を左右するほどの影響力を持つ神官たちによって軍事行動は禁じられてしまう。だが、レオニダスは自分の親衛隊300人を率いて、100万の大軍の前に敢然と立ちはだかるのだった・・・」


この作品は、紀元前480年の「テルモピュライの戦い(テルモピレーの戦い)」を描いたグラフィックノベル(アメコミ)を映画化したものです。
テルモピュライの戦いは、アカイメネス朝(アケメネス朝)ペルシアとギリシアの戦いであるペルシア戦争の一場面。ギリシアへ進撃してきたペルシア軍と、ギリシア北東部のテルモピュライの隘路で迎え撃とうとするギリシア軍の戦闘で、ペルシア戦争中盤最大の見せ場となっています。
この戦争に関しては歴史の父ヘロドトスが書いた『歴史』が詳しいですが、映画の原作『300』は史実をかなりディフォルメした形のアメコミで、映画自体は単純明快なストーリーながら革新的な映像美で魅せるアクション映画といった感じのものになっています。「史劇」という類いのものを求めてると、ちょっとショックを受けるくらいのやりたい放題です。
しかし、これがなかなか面白い。
フランク・ミラー氏は前に『シンシティ』の監督もやってますが、あれの映像的センスと『マトリックス』のようなアクションが融合し、動きの緩急の付け方や、カメラワークなどで今までにないアクションシーンを見せてくれます。

主人公レオニダスが治める国・スパルタといえば、スパルタ教育で有名な軍事国家。ドーリア系のスパルタ人は、紀元前10世紀頃にペロポネソス半島に入り、原住のアカイア人を奴隷として服属させました。こうしてギリシア最南端に出来たスパルタは、圧倒的多数の奴隷や周辺住民を抱える国となり、その反乱を警戒してスパルタ人はすべて兵士として厳しい訓練をさせられるようになります。当時のギリシアの他の都市国家は、他の職業を持ちながら戦時に兵士となる形でしたが、スパルタだけは徹底して軍事訓練に明け暮れました。体が弱い赤ん坊は山に捨てられるほどで、七歳で母親から引き離されて、戦いの訓練を受けたといいます。
ですから、今回スパルタ側がやる気満々で立ち向かっていくわけですが、その敵役であるアカイメネス朝ペルシャは、現在のイランにあった古代オリエントの大帝国。当時は現在のイラク、シリア、レバノン、イスラエル、トルコ、エジプトさえも支配下に入れているほどで、ギリシア全土どころか南端しか領土としていないスパルタとは、まさにアリと象ほどの差があったのです。
それでも果敢に戦うスパルタ兵の戦いを、思う存分描いた作品となっています。

ちょっと前の『アレクサンダー』などもそうですが、こういった作品では史実をそのまま再現、というような造り方ではなく、いろいろな逸話の面白い部分を集めて話を盛り上げています。いろんな考証などでも、歴史好きな人間としては、ぉぃぉぃ、と突っ込みたくなる部分もありますが、そこらへんを華麗にスルーすれば、だいぶ楽しむことができます。


『歴史』下巻


『歴史』下巻

(ヘロドトス。訳/松平千秋。岩波書店。岩波文庫。1972年。720円。)


『歴史』の7巻から9巻までが収録されている文庫の下巻ですが、『歴史』全9巻のうち第7巻をまるまる使って、クセルクセス1世の登場からギリシア上陸、テルモピュライの戦いまでを描いています。

これを読むと映画と違うシーンがあります。映画の中の冒頭で、レオニダスがペルシア側の使者を穴に蹴り落とす、というシーンがありますが、実際には前480年の時にはスパルタとアテネには使者は送られていません。実はペルシア戦争の初期の時、スパルタは送られてきた使者を井戸に落として殺してしまっていたので、今回は使者を出されなかったというわけです。しかし、映画では井戸に落とすシーンがうまく活用されています。

「クセルクセスはサルディスへ着くと、先ずギリシアへ使節を派遣して土と水を請求し、王のために食事の接待の用意も整えておくように通告させた。ただしアテナイとスパルタへは土の献上を要求する使節を送らず、この二国以外の国にはことごとく送ったのである。」(P34)
「クセルクセスがアテナイとスパルタへは土を求める使者を送らなかった理由というのはこうである。以前ダレイオスが同じ目的で使者を派遣した時、アテナイ人は土を求めてきたその使者を処刑坑(バラトロン)に投じ、スパルタ人は井戸に落とし、そこから土と水を大王の許へ持ってゆくがよい、といったのである。」(P83)

あと、カルネイア祭のせいで出陣が禁じられるというのがありますが、神託そのものはデルフォイの方に伺っていたりとか。
そもそも、テルモピュライの戦場で戦ったのが、まるでスパルタ兵300と、アルカディアなどの少数の援軍だけ、みたいに描かれてますが、ほんとはたくさんいました。4000人くらい。さらに途中で負けが確定すると各都市の兵士は引き上げ、スパルタのみが残った、みたいに描かれていますが、実はテバイとテスピアイの兵士たちもいました。1000人ほど。
また、ペルシア軍の方の人員も、『歴史』ではヘロドトスが次のように推定しています。

「アジアから来攻した水軍は右のごとく、その総勢は実に五十一万七千六百十名に上った。一方歩兵部隊は百七十万名、騎兵部隊は八万名であった。さらにこれに、アラビア人の駱駝部隊、リビアの戦車部隊、合計二万を加えねばならない。かくして陸海両軍の総兵力は二百三十一万七千六百十となる。アジア本土から動員された軍隊は右に述べたとおりであるが、これには随行の従僕や食糧輸送船およびその乗員は含まれていない。右に算出した全部隊の兵力にはさらに、ヨーロッパで徴用した部隊も加算せねばならない。(中略)私は三十万と推定する。この三十万をアジア部隊に加えれば、戦闘部隊の総兵力は二百六十四万と千六百十名となる。」(P119-120)

ヘロドトスはこれに非戦闘要員の数を同数として、その倍の528万3220人がテルモピュライにやってきていた、書いてます(笑)。
実際には5万〜20万くらいの間じゃなかったかと言われています。

映画の中では仮面を被った忍者みたいな兵士になってたペルシア軍の精鋭部隊についても書いてあります。

「一万人部隊を除く全歩兵部隊の司令官は右のとおりであったが、さてこのペルシア軍の精鋭一万人部隊を指揮したのは、ヒュルダネスの同名の子ヒュルダネスで、この部隊が『不死部隊(アタナトイ)』と呼ばれた理由はこうである。隊員が死亡とか病気などの止むを得ざる事情で欠ければ、代りの者が選ばれて補充され、隊員の数は決して一万を越えもせず欠けもしなかったからである。」(P58)

あと、ペルシア軍の中に、獣の形のかぶり物をした兵士が出てきますが、もしかしたら、これが元ネタかも。

「さてこのアジアのエチオピア人の装備は、大体はインド人部隊と同様であったが、頭には馬の首の皮を耳とたてがみの附いたまま剥いだのを被っていた。たてがみは兜の飾毛の代用であり、馬の耳はピンと立ててあった。また身を護るには盾の代りに鶴の皮を用いていた。」(P54)

しかし、何度読んでも、『歴史』は面白いですよ。どのページを開いても興味深いことばっかり書いてあります。

「旅人よ、行きて伝えよ、ラケダイモンの人々に。我等かのことばに従いてここに伏すと」(シモニデス)

最後、レオニダスは全スパルタ兵とともに討ち死にしますが、その死体はクセルクセスの前に引き出され、首はさらされます。この時の伝説で、解体されたレオニダスの死体から取り出した心臓には毛が生えていた、というのがあります。これこそ、「心臓に毛の生えている」という言葉のもとになったもののようです。


長い記事なので、分割してます。これについての他の本は、次の記事へ続きます。
テルモピュライの戦いは100万対300人のガチンコバトル。F・ミラー『300(スリーハンドレッド)』その2


参照サイト
300日本語公式
http://wwws.warnerbros.co.jp/300/
デジタル・クワルナフ
http://www.toride.com/%7Edigxwa/
アケメネス家の系図
http://www.toride.com/%7Edigxwa/digxwaFiles/genf/g_akemenesu.htm
レオニダス
http://www.e-leonidas.jp/

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by xwablog | 2007-06-11 03:43 | 史劇
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