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かわいい狼神ホロと若い行商人ロレンスの二人旅。支倉凍砂『狼と香辛料』第1巻の感想その1
これも古い記事。ちなみに、この記事からは、ちゃんと投稿日時を当時のものにして投稿します。前に入れたものも、直しておきます。そうすると、どうやら記事の順番がちゃんと日付順になるみたいなので、前のブログを知ってる人は、古い記事を見ないで済むわけです。

これは、歴史ものじゃないですが、あえて、こちらに残しておきます。歴史好きな人なら、結構いけるはず。
しかし、この『狼と香辛料』、まだほんのちょっと前の話なのに、こんなことになるとは思いませんでしたね。これは。
エキサイトブログでは、長文は禁止っぽいので、二つに分割してみます。

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2007年02月05日
狼神ホロと行商人ロレンスの二人旅。支倉凍砂『狼と香辛料』第1巻。

昨日はコミティア79もあったし、中近東文化センターでの聞きたい講演もあったけど、目覚めた時間が遅すぎ・・・・・大失敗です。
そういうわけで、ずっと『タタールのくびき』を読んでました。これについてはまた記事にします。

それはともかく。
ずっと気になってた『狼と香辛料』を読みました。少し前に全部読み終わってましたが、やっと感想記事にしました。第12回電撃小説大賞銀賞受賞作品。

狼と香辛料第1巻支倉凍砂

『狼と香辛料』第1巻

(支倉凍砂。イラスト/文倉十。メディアワークス。電撃文庫。2006年。590円。326ページ。)
「若き行商人のロレンスはパスロエ村に麦の取引でやってくるが、その帰り道、自分の荷馬車の中に少女がいるのに驚く。彼女は全裸な上に自分はあの村に昔からいた狼の神・ホロだと名乗る。ホロの持つ獣の耳と尻尾に驚きつつも、彼女を北の故郷に連れて帰ることに同意するロレンス。だが、パッツィオという街で、とある儲け話に係わることになり・・・」


去年のライトノベルの中で1番評判が高かった作品。作者はこれでデビューした新人作家・支倉凍砂(はせくらいすな)氏。
この小説が注目されているのは、中世風のファンタジー世界において、剣や魔法の戦いを描くのではなく、行商人の青年を主人公にし、「交渉・取引き」によってやり合っていくという、今までの定型から少し外れた方法でファンタジーを描いている、というのが評価されているのではないでしょうか。「ファンタジー」というと、ついそのファンタジーさを出すために、超自然なモノを前面に出してしまうのですが、この『狼と香辛料』ではその点は控えめにし、中世的世界観の中で、商業活動について描いている点だけでも珍しいです。「中世経済ファンタジー」とも呼ばれたりとかしてます。あと、何といっても、文倉十(あやくらじゅう)氏の描く狼の神様・ホロがめちゃくちゃ可愛いから、ということは重要かもしれません(ホロは少女の姿をしてますが、巨大な狼の姿にも変身できます)。


主人公クラフト・ロレンスは行商人。その道連れとなったのはかつて北の土地からやってきて、パスロエ村の豊穰を約束して守り神となったホロ。そのホロがその村の守り神のような存在になってから数百年が経ったが、時代はすでに宗教や神霊に重きを置かない時代へと移り変わっています。それを感じたホロは、もうこの村にいる必要は無いと思い、村で麦を仕入れていったロレンスとともに村を出ていくのです。ホロはその麦に宿る形で移動することが出来るようです。
はじめは驚いたロレンスも、彼女を故郷に連れていくことに同意し、一緒に行動することになります。
こうして始まった若い行商人の青年と、何百年も前から存在するけど獣の耳と尻尾を持つ少女の姿をした狼神の、ちょっと不思議な、だけど日常性の高いロードムービー型の物語がはじまるわけです。

いつか出世して、街で店を持つ商人になりたいロレンスは、儲けの機会をみつけては相手とのやり取りでなんとか自分に利益が出るようにしようとします。しかし、まだまだ若い彼は何度も失敗してしまいます。それに口を出してくるのが道連れとなったホロ。彼女は人ならざる鋭敏な感覚を持ち、鋭い指摘をしてロレンスを助けたりします。
だけど、二人とも基本的に素直になれないツンデレ属性なんですよ〜。
そもそも寂しくも誇り高い狼の神と、自尊心が過敏に反応する青年の二人組では、ふたりとも突っ張った態度を取ってしまったりして、ぎくしゃくすることも度々。だからこそ、というのもあるのですが、その二人のやりとりが、読んでてとても楽しいです。

ホロの「〜ありんす」とかの花魁言葉が、ツン特性を微妙にボカした形になっていて、キャラクターに「甘味」を出しているように思えます。さらには、甘々のデレデレムード時の効果が抜群なんじゃないかとか思ったり。あと、尻尾や耳の「表現力」が高く、目に見えるようでその都度嬉しくなってしまいますね。


さて、この第1巻の儲け話として登場する貨幣制度のことなどについて少し。

日本の「中世ヨーロッパ風ファンタジー作品」というと、実際には中世的世界をそのまま表現しているということはほとんど無く、実際には近世・近代のような世界観であり、それに現代的感覚が入り込んでいる、というものばかりです(例えば、『狼と香辛料』では商人たちが様々な品物を唐突に仕入れたり売り払ったりしていますが、それは現代的な売買の自由度であり、中世的な世界であれば市場はもっと閉鎖的で、各集団ごとに扱える物品に制限があったのでは?)。
この『狼と香辛料』も、実はそういったもののひとつなのですが、そうであっても他のものと少し違っている面白い点というのが、中世ヨーロッパのような経済活動を表現しようとしているところでしょう。
今の今まで、多くの日本のファンタジー世界の社会構造というものが、いい加減に作られてきた中で、そういった点に注目して書かれた作品は数少ないのです。

数少ないというからにはいくつかあったわけですが、自分が読んだ中では、それをメインにしたものは無かったような気はします。
ちなみに話の中で中世の商売・経済について語る部分があるファンタジー系の小説・ライトノベルといえば・・・うーん、思いつかないですね〜
ちょっとだけ言及してるものとしては、田中芳樹氏の『アルスラーン戦記』の中で、アルスラーンが南の港町ギランを治めるようになる、という部分で、少しお金の流れについて語ってたような。
あと、栗本薫氏の『グインサーガ』で、イシュトヴァーンがユラニアを乗っ取って、新首都イシュタールを建設した時にお金の出入りについて少し話してましたね。
貨幣については、嵩峰龍二氏の『ルニセク群雄伝 1 青風飛翔篇』(これは1巻だけで未完になってしまった心残りな作品。凄い面白そうだったんですけどね。そういや、これも「剣と魔法」ばかりのファンタジーに対する反発から生まれた作品だったような)の中で少し話がありました。これは、金貨が特別な贈与の対象物としてしか機能しない社会になってたはず。あと、同じく嵩峰龍二氏の作品で『雷の娘 シェクティ』でも、少し金に関する会話があった気がします。
それと、高殿円氏の『遠征王』シリーズの1番はじめの話も金の密売の話でしたね。確か金の精製がアマルガム法か青化法かで体調を崩すとか、なかなか凝ったネタで面白い作品だった覚えがあります。
ファンタジーというか、歴史・冒険ものの小説でだったら、商人も出てきます。
まずは、斉城昌美氏の『ビザンツの鷹』。これは主人公がビザンツ帝国の貴族だけど、ジェノバ人とともに商売に精を出してたりします。すぐ帝都を逃げるはめになりますが。
鳥海永行氏の『球形のフィグリド』では、偽金を見分けろ、とかそういった話がありました。
あと、確証は無いですが、王領寺静(藤本ひとみ)『黄金拍車』シリーズでも何かあったような気がします。
そうそう。金の話といえば、やっぱり新城十馬(現・新城カズマ)氏の『マリオン&Co 黄金郷に手を出すな』ですね。村田蓮爾氏がイラスト描いてましたが、これも懐かしいなぁ。
清水文化『ローマ金貨とドジ妖精 ラジカルあんてぃーく 3』はタイトルにローマ金貨とありますが、関係無いです。
はっきりとは思い出せないんですが、富士見ファンタジア文庫のソードワールドノベルの中に、商人、もしくはチャザの信者か神官が主人公の話ってあったような気もします。
そう、実はファンタジーにおける「商人」というと、普通は『ドラクエ』のトルネコとかなんでしょうけど、昔ずっとソードワールドやってた関係で、商業神チャ・ザの神官・信者のイメージが強かったりします。
「商人」が主人公、というものでは、ど真ん中なものとして、田中芳樹氏の『バルト海の復讐』というハンザ同盟の商業船の船長が主人公のものがありました。16世紀のバルト海世界が舞台で、経済ネタが満載でした。ただし、この作品は田中芳樹っぽくないということもあり、ゴーストライターが書いたものじゃないかとずっと思ってました。どうなんだろ。いろんな書評だと他のシリーズもぐだぐだらしいので、それが最近の実力とか?
ともかく、せっかくの歴史ものなのに、あまり面白くない作品でした。

まあ少し話が逸れてしまいましたが、そんなこんなで自分が読んでるファンタジー系ラノベなどの中には、あまり経済面での作り込みがしてある作品は少ないです。(もしかしたら、知らない作品で凄いのがあるかもしれませんが)
では、実際のところ、歴史上にこの『狼と香辛料』で語られるような話は、あったのかどうか? ということですが、その参考になるような資料などを紹介してみます。


「あの暖炉の部屋でロレンスに話しかけてきたゼーレンと名乗る駆け出しの行商人の若者は、ロレンスにちょっとした儲け話を持ってきたのだ。
それは現在発行されているある銀貨が、近々銀の含有率を増やして再発行されるという話だ。」(『狼と香辛料』第1巻P90より抜粋。)

『狼と香辛料』第1巻の物語の中心となるのは、銀の切り上げと貨幣投機、です。
この話の中では、トレニー銀貨という銀貨が、銀の含有量を増やして再発行されるので、その前に多量のトレニー銀貨を集めておいて、再発行されたらその銀貨と交換して差額を儲ける、という話が出てきます。もっとも、話の中では、銀含有量の切り上げでは無く、切り下げによってトレニー国が儲けを出そうとする、という展開になってくるのですが・・・。
ここでネタにされているように、銀貨に限らず、貨幣の貴金属の含有量を変更する、ということは本当にあったようです。それも度々。
それについては次の本に少しだけ書かれています。

『図説 お金(マネー)の歴史全書』

『図説 お金(マネー)の歴史全書』

(ジョナサン・ウィリアムズ/編。湯浅赳男/訳。東洋書林。1998年。3800円。368ページ)
序論・
第1章・メソポタミア・エジプト・ギリシャ
第2章・ローマ世界
第3章・中世ヨーロッパ
第4章・イスラーム諸国
第5章・インドと東南アジア
第6章・中国と極東
第7章・近代初期
第8章・アフリカとオセニア
第9章・近代


取り合えず手持ちのから紹介すると、これでしょうか。
「人はなぜお金に惹かれるのか。人とお金の5000年。世界中のあらゆる時代のお金を網羅し、時として危険な、この隣人のすべてを描きだす。」
と、帯には書いてありますが、「網羅」は言いすぎ。
個々の貨幣・紙幣に対する深い情報はありませんが、貨幣の通史としてはよく出来てるかと。図版、写真が多いのはとても良いです。

で、この本の中に、次のように書かれています。

「いずれにせよ、小額単位貨幣のために貴金属使用を維持することは、自律的な安定を保証するものではなかった。ドゥカートとターレルの等価コインはヨーロッパじゅうで一般的に標準でありつづけたが、低額貨幣を過大な額面とし、過大に発行することは利益を生むし、便利でもあるので、劣質銀貨であれ、銅貨であれ、いつも支配者を誘惑するものであった。こうして1620年代のドイツでは、『削り屋と貨幣変造の時代』といって王侯たちが三十年戦争の初期に利益を求めてコインの品位を落とすということが盛んに行われたし、・・・・・」(P248〜249より抜粋。)

これはまさに『狼と香辛料』第1巻のP238以降に書かれている話のまんまですね。

さらに次の本にはこうも書いてあります。

週刊朝日百科 世界の歴史 32 税と貨幣


『週刊朝日百科 世界の歴史 32 税と貨幣』
(朝日新聞社。1989年。510円)
・古くて新しいテーマ(佐藤次高)
・金貨から銀貨へ ヨーロッパ中世前期の貨幣経済(森本芳樹)
・征服と徴税 初期イスラーム国家の税(森本公誠)
・中国船の入港とインド商人 15世紀の貨幣・重量単位・取引(辛島昇)
・租庸調の理念と現実 国家と土地と税(池田温)
・千変万化のお金のすがた(吉沢英成)
・西の金銀貨、東の銅貨 貨幣の比較文明史(湯浅赳男)
・保護と代償 イスラーム税法の土台(佐藤次高)
・塩が支えた国家 中国の塩税(妹尾達彦)


これは『朝日百科 世界の歴史』の中の一冊ですね。薄い方のやつです。
この中では、より説明的に書かれていて分かりやすいです。

「ところで、この公権力の一部としての造幣権の行使は、収入源であることが公認されていた。この点で、ヨーロッパ中世の貨幣制度は、近代のそれと大きく違っている。金貨や銀貨は、それ自体が貴金属として内在的価値を持つ。しかし、金貨・銀貨の相場、即ち1枚の貨幣が市場で通用すべき価格は、貴金属としての価値より高く公定されていた。造幣権をもつものは、金や銀でお金を作ることにより、その金銀の価値以上の貨幣を入手できたのである。」(『週刊朝日百科 世界の歴史 32 税と貨幣』B-196 より抜粋。)

つまり、金貨などの貨幣はその1枚分の価値よりも「材料費」の方が安い、ということを利用して、貨幣鋳造権を持つ人々は、貨幣を作ることで利益を得ていたわけです。
「貨幣の価値」については『狼と香辛料』の中でも言ってましたね。

「貨幣というのはな、ほとんど信用で成り立っている。そこに入っている銀や金と同じ重さの銀や金の値段と比べたら、銀貨や金貨は明らかに価値が高い。」(『狼と香辛料』P151ロレンスの台詞より抜粋。)

しかし、日本の1円硬化は1枚作るのに1円以上の経費がかかるなど、貨幣は必ず材料費の方が安いというわけではありません。
これはどうやら現代だけのことではなかったようです。

貨幣システムの世界史


『貨幣システムの世界史 「非対称性」をよむ』

(黒田明伸。岩波書店。世界歴史選書。2003年。2600円。221ページ)
序章・貨幣の非対称性
第1章・越境する回路
第2章・貨幣システムの世界史
第3章・競存する貨幣たち
第4章・中国貨幣の世界
第5章・海を越えた銅銭
第6章・社会制度、市場、そして貨幣
第7章・本位制の勝利
終章・市場の非対称性


貨幣経済が歴史上、どのように回っていたのか、世界史的にはどのように変化していったのかについての本。
この本は非常に面白いので(去年の年末最大の衝撃でした)、別の機会にこれだけで記事書いてみたいです。

で、この本の中で、11世紀や18世紀の中国の上質な銅銭のことを書いてあります。

「・・・中国の銅銭に関しては重大な陥穽がある。ウェーバーは、価値のともわなないものを支配により受領させる事例を想定していたことは間違いない。だが、中国の銅銭は素材の市場価格がその額面をしばしば上回るものだったのである。」(『貨幣システムの世界史』P59より抜粋。)

ここでは上質な銅を使って銅銭を作っていたために、「私銷(ししょう)」つまり別の目的のために貨幣を溶かしてしまう、ということがあったという例などを出して紹介してました。
このように、貨幣は、貴金属の含有量がその貨幣の額面に満たない分しか無いと偽造され、額面より多く含んでいると溶かされて地金として転用されてしまう、というものなのです。

さらに、ただ作るだけでも利益が出るのに、さらに利益を得る方法がありました。それが貨幣の価値を切り下げる「貶質(へんしつ)」です。

「しかし貨幣の単位当たりの貴金属量の切り下げ(貶質)は、造幣権者の当面の収入増加になるため、中世後期にはこうした操作が乱用されるようになった。たとえば、1s.だった銀内容1グラムの銀貨を、1片の法令によって突然2s.に相場変更すると1s.当たりの銀量は0.5グラムになる。すべての貨幣計算は、原則としてL.s.d.で行われているから、この貨幣操作によって造幣権者は、手持ちの銀貨を2倍の価値で使えることになる。」(『週刊朝日百科 世界の歴史 32 税と貨幣』B-197〜198 より抜粋。)

なんとなく分かりますか? この詐欺的な手法が。
これが物語の中でトレニー国によって行われようとした金儲けの方法です。『週刊朝日百科 世界の歴史 32 税と貨幣』B-197には、「しかも造幣権者は、量目や品位を変更して新しい貨幣を発行することも、時には流通している貨幣をそのままにして、その相場を変更することもできたのである」とありますが、トレニー国の場合は前者の方法です。

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ここで文を分割しました。

続きはこの記事です。

かわいい狼神ホロと若い行商人ロレンスの二人旅。支倉凍砂『狼と香辛料』第1巻のその2
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by xwablog | 2007-02-05 01:24 | 史劇
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