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職業と社会的地位の関係。その定義と変遷と要因についての考察。ミネルヴァ書房『ステイタスと職業』
職業と社会的地位の関係。その定義と変遷と要因についての考察。MINERVA西洋史ライブラリー20『ステイタスと職業 社会はどのように編成されていたか』

最近は降ったり止んだりで忙しい天気ですね。1週間ほど前、風の強い雨の日にいっつも使っていた折り畳み傘が壊れてしまっていたのですが、今日やっと新しいのを買いました。ユニクロで安物を買ったのですが、その時傘の売り方が少し妙でした。一個だと590円。二個だと1000円だそうです。傘を二個同時に買うという状況ってのがよくわかりません。買い溜め?

それはともかく。
この記事、はじめは『攻殻機動隊SSS』の人口問題の話に繋げて書いてたのですが、途中で切り離したやつです。

この本は何気なく手にとったのですが、かなり当たりの本。

ステイタスと職業_前川和也

『ステイタスと職業 社会はどのように編成されていたか』

(前川和也/編著。ミネルヴァ書房。MINERVA西洋史ライブラリー20。1997年。5150円)
1・社会編成のイデオロギー
第1章・古代シュメールの社会編成
第2章・近世イギリスにおけるステイタス基準の展開(川北稔)
第3章・ロワゾー『身分論』の世界
第4章・近世ポーランドの社会成層観(小山哲)
2・ステイタスをめぐる意識
第5章・1184年のマインツ宮廷祝祭と騎士身分(服部良久)
第6章・商業デロジアンス規範の生成
第7章・「危険ユエニ説教スベカラズ」
第8章・二つのカースト・モデルと現世放棄
3・職業の専門性とステイタス
第9章・10-11世紀コンスタンティノープルの公証人(井上浩一)
第10章・法学者オドフレドゥスをめぐるステイタスの諸相
第11章・大学の貴族化と法学部
第12章・研究と教育のはざまで
第13章・農村の職業と労働経験の意味
4・周縁性と差別
第14章・中世末期ドイツ都市共同体と周縁集団
第15章・日本中世の地縁的・職能別共同体と被差別民

それぞれ別の人が書いた論文集みたいな本。
『ステイタスと職業』は、歴史的にその当時の人が、職業によってどのような地位として扱われていたのか、ということに焦点を当てた本で、興味深い話がいっぱいです。


この中の「近世イギリスにおけるステイタス基準の展開」に人口減少が問題視された18世紀のイギリスの例がのってました。

「18世紀後半のイギリスでは、いわゆる『人口論争』が展開した。聖職者ブラケンリッジ Rev. Brackenridge 師の論文に始まったこの論争は、要するにイギリスでは人口が減少しつつあり、兵士や労働力としてのマンパワーの補給が、いずれ決定的に危機に瀕することになろうという、ブラケンリッジ博士の主張を軸とするものであった。」(P40より抜粋。)

やはりこうした人口減少の時には、時代に関係なく、「マンパワーが必要を満たせない」ということが問題視されるということか?
ちなみにこのイギリスの場合は1801年にセンサス(人口調査・戸籍調査)が行われて論争は収束したらしいです。
あと、このイギリスの人口減少の一因として、アメリカなどへの移民があるとされていました。この時代のイギリスはそういう意味で非常に特殊なのでは?

この前記事書いた『江戸の情報力 ウェブ化と知の流通』の中でも人口調査の話がありました。武士たちの家系についての報告を提出させたり、町の人口を調査したりで、都市部での人口などについてはだいたい実数に似た数字が出てます。けど、なぜか日本の総人口を算出すると二億を越えてしまっていました。なんで?(ちなみに江戸時代の日本の人口は2500万弱もしくは3200万人程度で安定していたようです。)

日本の人口についてのサイトによると、

「また,歴史人口学研究者・上智大学教授の鬼頭宏氏の「人口から読む日本の歴史」(講談社学術文庫)によると,この2千年間の日本の人口は,紀元前後の弥生時代が60万人程度,奈良時代(750年)450万人,関ヶ原の合戦当時(1600年)1,200万人,江戸時代(1700年)3,230万人程度ということです。」

「現在の人口減少は日本が経験する歴史上4回目の減少化ということです。速水融・宮本又郎著「概説17−18世紀−日本経済史1−岩波書店」によると,農業技術は18世紀の前半(1730年頃)に人口はピークに達し,以後は僅かしか伸びなかったとあります。」

「近年の人口は,日露戦争の直前の1900年で約4,300万人,1926年が5,970万人。」

だそうです。

ところで、面白いことに紀元前の段階では日本の人口の大部分は東日本に住んでいたそうです。

「文化人類学者・小山修三氏(国立民俗博物館名誉教授)によると,縄文時代中期(紀元前3~2000年前)の日本列島の人口は約26万人,その91%が東日本に住んでいた−−との見解を示しています。(出典:発掘された古代史−日本文芸社刊)」

なんで西日本に人口が少なかったんでしょ? 西南のほうが住みやすいと思うのですが。

話が飛び飛びになりましたが、『ステイタスと職業』では別に人口問題については書いてないので、また別のヨーロッパの人口についての本が必要ですね。ここらへんのネタも楽しい。


ちなみにイギリスのステイタス(身分・地位)についての話は他にも面白い話がのってました。
近世のイギリスにおいては、土地所有の多少によってステイタスが決まっていた中世的社会観から、それだけでは決定しずらくなった社会、職業がステイタスの要素の一部とする社会への変容がみられるとのこと。

土地を多く持つ→地位(身分)が高い  持ってる土地が少ない→地位が低い

という単純な構造から、社会の複雑化などによって単純な判定ができなくなって、職種や収入という要素が導入されてくる。逆に言うと都市生活者や農村の周縁集団には、身分を判断するのための基準が収入や職業くらいしかなかったということ。(そして、それは「身分」から「階級」への社会区分の転換を生むようになり、現在にも続く階級社会を構築していくようになるという感じ?)
で、17世紀くらいになると社会の中にそうした単純に分類できない層ができてきたことと関係して、徐々に「中流」というものが考え出されるようになります。それは社会上層のジェントルマンたちでもなく、隷属的な下層民でもない、まさに中間的な人たちです。しかし、「中流」という概念は、便宜上生み出されたものであるので、その定義はかなり曖昧なものでした。(そもそも中流は「身分・階級」といったものではなく、社会的階層を比較的に区分する時に使われる言葉でしかない)
イギリスにおいては基本的に

「ジェントルマン(紳士。名士。土地経営者) = 上流・上等」
「マン(人間。ジェントルマンではない人々) = 下流・下等・劣等」

という明確な二分化があって、この分け方の概念は残存しつづけました。だから、18世紀になっても、社会的上昇を目指すのであれば、資本家となることよりも、ジェントルマンを目指すべきと考えられたようです。

「デフォーの『ロビンソン・クルーソー漂流記』の主人公は、自分たちの属する『中流』の階層こそはもっとも生活の安定した、幸福な階層なのだという父親の説得を振りきって、ヨークシアの港町ハルをあとにして海に出た。このくだりは、かつて大塚久雄によって取りあげられ、ロビンソンは(産業)資本家に上昇していく『ヨーマンの似姿』だとされた。しかし、『中流』に安んじることを拒否したロビンソンが産業資本家などをめざすはずもなく、『ジェントルマン』への上昇転化こそが、作者自身の強い願望であり、したがって主人公の意思であったことは、デフォーの関連の著作をみれば疑問の余地なく明白である。
にもかかわらず、このような強引な解釈が、歴史学の世界ばかりか、文学の世界にまで無批判にとりいれられてきた背景は何か。そこには、なぜか、わが国の学界にきわめて強い『中流』信仰がある。否、この信仰はわが国ばかりか、英米の学界においても、強力に作用してきた。」

つまり産業資本家というものは、ジェントルマンではない階級の富裕な人々であって、「中流」から産業資本家になったとしても同じ社会階層内における移動というわけです。
そして、流動的な概念でくくられた中流の内部において、独自の判定基準がつくられることにもなります。それが身分や土地所有という原理に代わる、所得や職種の原理ということ。

「こうして、土地をなかなか離れられなかったイギリスのステイタス構造は、早くに17世紀後半から、決定的には18世紀末を境に、本質的に生活様式の問題に転換する。」

さらには、18世紀末から19世紀に入ってくると、収入がいくらあるか、資産がどれくらいか、ということとともに、その金をどのように使うか、つまりチャリティなどで、どれだけ社会に貢献するためにお金を使っているか、がその人の素晴らしさを表現することになる。生活パターンが表す「富者の責任論」というわけです。
イギリスの職業とステイタス、そして身分についての面白いお話でした。


次はフランスの話。
「第3章・ロワゾー『身分論』の世界」は16-17世紀のフランスで『身分論』という本を書いたロワゾーという法学者の著作などから当時の状況・心性を考えるというもの。
これもやはりかなり面白く、職業についてもですが、フランス王権についての考え方という点でも興味深い。

「すべて、ものごとには、よいしきたりと、それを方向づけるために、秩序が必要である。この世界自体が、ラテン語でそのように(秩序と)呼ばれるもの、そのすばらしい配置の飾りつけと恩恵によっているのである」(P60より抜粋。)

ロワゾーは自著の『身分論』の冒頭部分でこう言っていて、世界の秩序という理路整然としたものが、世界を支配している、という考えに立っていたようです。それは当時の法曹界全般での共通認識だったとも。
しかし、ロワゾーは同時に当時の変化の大きな時代に対して前向きな考えももっていたようで、新興貴族とかに肯定的。
彼自身は、身分とは何であるのか、について「ある種の『品位』」「名誉ある資格」「地位と官職と所領にいたるための特別の適性や能力」「身分とは、公権力への適性をともなった品位である」などと書いています。このことから、彼は「品位」の上位概念として「身分」というものを考えていたようです。
彼にとっては身分とは、社会的地位で通常その個人一代だけのものであり、唯一それが世襲できるのは貴族だけでした。身分というものが、領地や官職といったものとの違いがそこにあるとしています。それゆえ、身分を手に入れた人間は、それを周囲の人々に分かってもらわなければならない、ということになります。それは聖職者の叙任、博士号の授与、親方のギルド参入の儀式といったもので、「盛儀」となって派手に行わなければなりません。そうやって、社会に認知してもらうのです。
この話はとても興味深かったです。自分の身分の「周知」こそが、自分の身分を確かにするというわけです。当時の社会の自己表現の制限とか、行動規定、逆に自己主張の強さといったものは、こうした自己の存在を周囲が決定するという感覚の強さによって生じたものなのかもしれませんね。

一番の目当てだった話が、「近世ポーランドの社会成層観」なんですが、これもよかったです。
16~18世紀あたりのポーランドにおける社会を構成する人々を、どのようにして分類していたか、といったことを、徴税などの公文書や、当時の本やパンフレットにおける分類の仕方によって探るという内容。
いわゆる印欧語系諸民族の中によく出る「聖職者・戦士・農民」の三身分という分類もポーランドにある身分の考え方に影響してましたが、「国王・元老院・騎士身分」という分け方もあったようです。それぞれが君主政・貴族政・民主政を代表する政体の合一がポーランドという国家を形成しているという考え。その場合、都市民・農民といった下層民たちはまったく国民の中に含まれていないわけです。ここで面白いのは、国王がそれひとつで一つの「身分」を成しているとみなされるところです。それはポーランドが選挙王制であることも考えるとより興味深いかと。
ほかに面白かったのは、ある木版画に登場する人々だと「行商の女、靴職人、ユダヤ人、金細工師、理髪師、商人、画家、アルメニア人、肉屋、楽士、仕立て屋、居酒屋の女将、薬屋」といった職業などが登場します。ユダヤ人やアルメニア人が、職業別の列記の中に登場するというのはヨーロッパではよくみかけますね。しかし、ポーランドの課税のためのカテゴリーの中には、「ワラキア農民」「オランダ人入植者」「タタール」「ジプシー」「スコットランド人」がいたりします。
ちなみに、タタール人は軍事勤務をしていたようです。

他にも面白い記事がいっぱいありました。紹介しきれないのが残念。
また読もう。


ところで、ドイツ傭兵の「ランツクネヒト」は、クネヒトってあるから、「~の奉公人」って意味? ランツってなんだろ?


参照サイト
ミネルヴァ書房
http://www.minervashobo.co.jp/
日本の人口と人口問題
http://www2s.biglobe.ne.jp/~kobayasi/area/population/popu_1.htm
注目サイト
ガチャピン日記(フジテレビの公式のやつ)
http://gachapin.fujitvkidsclub.jp/

関連記事
多数派でない者は枠からはずれ、人の感情を害する。白水社『中世のアウトサイダーたち』
http://xwablog.exblog.jp/8181408
哀れみと施しの交換経済。中世ドイツの乞食や詐欺師についての本『放浪者の書 博打うち 娼婦 ペテン師』
http://xwablog.exblog.jp/10538361


この記事へのコメント

>ランツってなんだろ?
Lands
直訳すると国だわな、ラントってやつ。英語だとカントリー?
Posted by モーリー at 2007年04月27日 02:50

>ランツ
「Lands」だからまんま英語のlandと同じか?
けど、「ランツ」+「クネヒト」となった、その由来というか、「ランツクネヒト」の意味するところが知りたい。
Posted by 管理人・馬頭 at 2007年04月27日 03:34

>Land
1--国、2---土地、3---陸、4---田舎、5---地方、6---州。だそうです。
ドイツ帝国時代になってから「州」の意味が使われはじめというから、これは外せるようです。
Posted by 管理人・馬頭 at 2007年04月27日 03:59

ネットの書き込みに要注意! 民家が一晩で廃墟と化す(痛いニュース)
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/965399.html
「ネットの書き込みに要注意! 民家が一晩で廃墟と化す
英国北東部ダラムに住む17歳の少女が、両親不在の間、家でパーティーを開こうとインターネット上に書き込みをしたところ、酒やクスリに溺れた見知らぬ若者たちが200人ほど押しかけ、家をめちゃくちゃにしていったという。」

これの書き込みで、みんな「イギリスは紳士の国」とか書いてますが、イギリスの紳士とはかなり限られた人々のことを言うのであって、この家に来たであろう下層階級の人々はまずそもそも「紳士」という概念に当てはまらないのですよ。だからまず「紳士」というものの認識そのものが間違ってるかと。
まあ、来た200人の中に本当に紳士がいた可能性がなきにしもあらずなのでどうともいえませんが。
Posted by 管理人・馬頭 at 2007年04月30日 00:19


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by xwablog | 2007-04-24 01:52 | 書庫
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